短く言うと
モックアップルーム(モデルルーム、サンプルルームとも呼ばれます)は、最終デザインどおりに、実際の仕上げ材、FF&E(家具・什器・備品)、照明、水まわり設備まで入れて作る1室の客室です。 オーナー、ブランド、運営会社が実物を見て承認してから、残りの客室を施工に回します。
設計変更が「まだ安く済む」最後のタイミングでもあります。モックアップが承認された後の変更は、すべて客室数の分だけ掛け算になります。
なぜ作るのか
- ブランドスタンダードの承認。ブランドの設計・建設部門が、図面上ではなく実物で、仕様書どおりに実現できているかを確認します。
- オーナーの承認。質感、広さの体感、グレード感はパースでは伝わりません。オーナーは実際に立って確かめたいものです。
- 運営側の検証。総支配人やハウスキーピングが、ベッドメイクや清掃を実際に行い、客室として機能するかを試します。
- 施工品質の基準。承認されたモックアップが、以降すべての客室を検査する際の物差しになります。
- 調達の確定。FF&Eの仕様、数量、納期を、量産発注の前に固めます。
誰が承認するのか
フルサービスホテルの場合、承認に関わるのはオーナーまたはアセットマネージャー、ブランドの設計・建設担当、運営会社(総支配人、ハウスキーピング、エンジニアリング)、インテリアデザイナーと設計事務所、FF&E調達代理店、内装施工会社、設備(MEP)コンサルタント、そして客室内に機器が入る場合はAV・IT担当までになります。
関係者が多いほど、承認のスピードは「全員が同じ部屋を同じタイミングで見られるか」に左右されます。海外ブランドであれば、出張か、写真での判断になりがちです。
費用の内訳
客室そのものの工事費は、全体の一部に過ぎません。費用の多くは、1室だけを工程の順序から外して先に作るために発生します。
| 項目 | 費用を左右する要因 |
|---|---|
| 設計時間 | 1室のための詳細図、仕上げ表、FF&E仕様書の作成と、確認のたびの修正。 |
| 順序外の施工 | 本工事とは別の場所・タイミングで1室だけ作るための仮設、搬入、設備の引き込み。 |
| FF&Eサンプル | 本来は量産価格で買うものを単品価格で購入し、納期短縮のための特急費用がかかる。 |
| 修正ラウンド | 通常2〜3回。変更のたびにサンプルの再手配と工程の手戻りが発生する。 |
| 確認後の扱い | 解体するか、ショールームとして残すか。いずれも費用か面積を消費する。 |
金額はブランドやグレードで大きく変わります。ddxが計画時に置く中央値は、フルサービスホテルの客室1室でおよそ15万米ドル(為替によりますが、日本円でおおむね2,000万円前後)です。 標準仕様のセレクトサービスであればこれを大きく下回り、特注の造作家具や石材を多用するラグジュアリー客室では、その数倍になることもあります。 ブランドの設計・建設部門には独自の基準値があるはずで、実際の計画ではそちらを優先してください。
期間の目安
- 設計凍結とサンプル発注:0〜1週目。
- FF&Eサンプルの納期:4〜12週。特注品はさらに長くなります。
- 施工:3〜6週。
- 確認・修正ラウンド:1回あたり1〜3週、通常2〜3回。
サンプルが先行手配されていれば、デザイン承認から歩ける部屋ができるまでおよそ8週間。手配前であれば、それ以上かかります。 見落とされがちなのは修正ラウンドのコストです。変更のたびに調達がやり直しになり、変更を承認すべき人たちが同じ都市にいることはまれです。
物理モックアップ
約8週間
デザイン承認から、歩ける部屋ができるまで
ddx VX
約1日
モデルのアップロードから、Meta Quest 3で歩ける部屋ができるまで
承認前のチェックリスト
部屋に入った関係者が実際に確認すべき項目を、確認の進み方に合わせてまとめました。
間取りと動線
- 客室の有効幅と、ベッドの両側・デスクまわりの通路幅。
- ドアの開き勝手、スーツケースの置き場、クローゼットに1週間分の衣類が入るか。
- バリアフリー客室との差分と、基本設計がそれを吸収できるか。
ベッドと睡眠環境
- ブランドスタンダードに対するマットレスの硬さとサイズ。
- ヘッドボードの高さと、ベッドサイド照明やアートとの関係。
- 遮光:カーテンの重なり、カーテンボックス、端からの光漏れ。
照明
- シーンごとの照度と、疲れたゲストが迷わずに操作できるスイッチの位置。
- ベッドの読書灯、デスクの作業灯、洗面の鏡まわり。
電源と通信
- ベッド両側とデスクのコンセント・USBの数と位置。家具を動かさずに手が届くか。
- ベッドと椅子から見たテレビの高さ、Wi-Fiの強さ、AV仕様書で約束した機能。
浴室
- シャワーの水圧と排水、床の段差、滑りにくさ。
- 目地、シーリング、防水の納まり。タオル掛けと収納の位置。
音と空調
- 廊下および隣室との遮音。
- 空調の運転音、サーモスタットの位置、ゲストが自分で操作できるか。
仕上げと耐久性
- 床、壁、造作家具の傷のつきやすさと清掃のしやすさ。
- 承認済みサンプルに対する、施工後の色と艶の差。
運営面
- ベッドメイクと清掃にかかる時間、備品補充の動線。
- パネルの裏にある設備へのメンテナンスアクセス。
ブランドスタンダード
- 必須項目がすべて揃っていること。逸脱がある場合は、文書化された承認があること。
物理モックアップの限界
- 1室しか作れず、1か所にしかなく、現地に行ける人しか見られない。
- 仕上げの選択肢を並べて比べるには、一部を作り直すしかない。
- 変更のたびにサンプルの再手配と工程の手戻りが発生する。
- 海外の関係者は出張するか、写真で判断するしかない。
- 承認が終われば、解体されるか、使われなくなる。
VRという選択肢
VXは、設計データからクラウドGPU上で客室をレンダリングし、Meta Quest 3のブラウザに実寸大でストリーミングします。アプリのインストールは不要です。 東京、ロンドン、ドバイの関係者が同じ日に同じ部屋に入り、3パターンの仕上げ案をその場で見比べて、判断できます。承認にかかるのは数四半期ではなく、数日です。
VRが置き換えるのは設計承認の繰り返しであって、物理的な品質基準そのものではありません。マットレスの寝心地、水圧、遮音は身体で確かめるものであり、それができるのは実際に作られた部屋だけです。 だからこそ、物理モックアップはデザインが合意された後に、正しい仕様で、1回だけ作るのが合理的です。議論が続いている間に2回、3回と作り直すのではなく。
お問い合わせフォームは英語ですが、日本語でご記入いただいて構いません。東京オフィスから折り返します。
Read this in English: What is a hotel mock-up room?