VX

解説

モックアップルームとは

ホテルの新築・改装で、客室を量産する前に1室だけ実物大・本番仕様で作る「確認用の客室」です。 何のために作るのか、誰が承認するのか、費用と期間の目安、承認前に確認すべき項目、そしてVRで置き換えられる部分をまとめました。

ddx  ·  2026年11月6日更新  ·  読了目安 6分

短く言うと

モックアップルーム(モデルルーム、サンプルルームとも呼ばれます)は、最終デザインどおりに、実際の仕上げ材、FF&E(家具・什器・備品)、照明、水まわり設備まで入れて作る1室の客室です。 オーナー、ブランド、運営会社が実物を見て承認してから、残りの客室を施工に回します。

設計変更が「まだ安く済む」最後のタイミングでもあります。モックアップが承認された後の変更は、すべて客室数の分だけ掛け算になります。

なぜ作るのか

  • ブランドスタンダードの承認。ブランドの設計・建設部門が、図面上ではなく実物で、仕様書どおりに実現できているかを確認します。
  • オーナーの承認。質感、広さの体感、グレード感はパースでは伝わりません。オーナーは実際に立って確かめたいものです。
  • 運営側の検証。総支配人やハウスキーピングが、ベッドメイクや清掃を実際に行い、客室として機能するかを試します。
  • 施工品質の基準。承認されたモックアップが、以降すべての客室を検査する際の物差しになります。
  • 調達の確定。FF&Eの仕様、数量、納期を、量産発注の前に固めます。

誰が承認するのか

フルサービスホテルの場合、承認に関わるのはオーナーまたはアセットマネージャー、ブランドの設計・建設担当、運営会社(総支配人、ハウスキーピング、エンジニアリング)、インテリアデザイナーと設計事務所、FF&E調達代理店、内装施工会社、設備(MEP)コンサルタント、そして客室内に機器が入る場合はAV・IT担当までになります。

関係者が多いほど、承認のスピードは「全員が同じ部屋を同じタイミングで見られるか」に左右されます。海外ブランドであれば、出張か、写真での判断になりがちです。

費用の内訳

客室そのものの工事費は、全体の一部に過ぎません。費用の多くは、1室だけを工程の順序から外して先に作るために発生します。

項目 費用を左右する要因
設計時間1室のための詳細図、仕上げ表、FF&E仕様書の作成と、確認のたびの修正。
順序外の施工本工事とは別の場所・タイミングで1室だけ作るための仮設、搬入、設備の引き込み。
FF&Eサンプル本来は量産価格で買うものを単品価格で購入し、納期短縮のための特急費用がかかる。
修正ラウンド通常2〜3回。変更のたびにサンプルの再手配と工程の手戻りが発生する。
確認後の扱い解体するか、ショールームとして残すか。いずれも費用か面積を消費する。

金額はブランドやグレードで大きく変わります。ddxが計画時に置く中央値は、フルサービスホテルの客室1室でおよそ15万米ドル(為替によりますが、日本円でおおむね2,000万円前後)です。 標準仕様のセレクトサービスであればこれを大きく下回り、特注の造作家具や石材を多用するラグジュアリー客室では、その数倍になることもあります。 ブランドの設計・建設部門には独自の基準値があるはずで、実際の計画ではそちらを優先してください。

期間の目安

  • 設計凍結とサンプル発注:0〜1週目。
  • FF&Eサンプルの納期:4〜12週。特注品はさらに長くなります。
  • 施工:3〜6週。
  • 確認・修正ラウンド:1回あたり1〜3週、通常2〜3回。

サンプルが先行手配されていれば、デザイン承認から歩ける部屋ができるまでおよそ8週間。手配前であれば、それ以上かかります。 見落とされがちなのは修正ラウンドのコストです。変更のたびに調達がやり直しになり、変更を承認すべき人たちが同じ都市にいることはまれです。

物理モックアップ

約8週間

デザイン承認から、歩ける部屋ができるまで

ddx VX

約1日

モデルのアップロードから、Meta Quest 3で歩ける部屋ができるまで

承認前のチェックリスト

部屋に入った関係者が実際に確認すべき項目を、確認の進み方に合わせてまとめました。

間取りと動線

  • 客室の有効幅と、ベッドの両側・デスクまわりの通路幅。
  • ドアの開き勝手、スーツケースの置き場、クローゼットに1週間分の衣類が入るか。
  • バリアフリー客室との差分と、基本設計がそれを吸収できるか。

ベッドと睡眠環境

  • ブランドスタンダードに対するマットレスの硬さとサイズ。
  • ヘッドボードの高さと、ベッドサイド照明やアートとの関係。
  • 遮光:カーテンの重なり、カーテンボックス、端からの光漏れ。

照明

  • シーンごとの照度と、疲れたゲストが迷わずに操作できるスイッチの位置。
  • ベッドの読書灯、デスクの作業灯、洗面の鏡まわり。

電源と通信

  • ベッド両側とデスクのコンセント・USBの数と位置。家具を動かさずに手が届くか。
  • ベッドと椅子から見たテレビの高さ、Wi-Fiの強さ、AV仕様書で約束した機能。

浴室

  • シャワーの水圧と排水、床の段差、滑りにくさ。
  • 目地、シーリング、防水の納まり。タオル掛けと収納の位置。

音と空調

  • 廊下および隣室との遮音。
  • 空調の運転音、サーモスタットの位置、ゲストが自分で操作できるか。

仕上げと耐久性

  • 床、壁、造作家具の傷のつきやすさと清掃のしやすさ。
  • 承認済みサンプルに対する、施工後の色と艶の差。

運営面

  • ベッドメイクと清掃にかかる時間、備品補充の動線。
  • パネルの裏にある設備へのメンテナンスアクセス。

ブランドスタンダード

  • 必須項目がすべて揃っていること。逸脱がある場合は、文書化された承認があること。

物理モックアップの限界

  • 1室しか作れず、1か所にしかなく、現地に行ける人しか見られない。
  • 仕上げの選択肢を並べて比べるには、一部を作り直すしかない。
  • 変更のたびにサンプルの再手配と工程の手戻りが発生する。
  • 海外の関係者は出張するか、写真で判断するしかない。
  • 承認が終われば、解体されるか、使われなくなる。

VRという選択肢

VXは、設計データからクラウドGPU上で客室をレンダリングし、Meta Quest 3のブラウザに実寸大でストリーミングします。アプリのインストールは不要です。 東京、ロンドン、ドバイの関係者が同じ日に同じ部屋に入り、3パターンの仕上げ案をその場で見比べて、判断できます。承認にかかるのは数四半期ではなく、数日です。

VRが置き換えるのは設計承認の繰り返しであって、物理的な品質基準そのものではありません。マットレスの寝心地、水圧、遮音は身体で確かめるものであり、それができるのは実際に作られた部屋だけです。 だからこそ、物理モックアップはデザインが合意された後に、正しい仕様で、1回だけ作るのが合理的です。議論が続いている間に2回、3回と作り直すのではなく。

お問い合わせフォームは英語ですが、日本語でご記入いただいて構いません。東京オフィスから折り返します。

Read this in English: What is a hotel mock-up room?